【インターン生リポート】風が奏でるライブハウス ~Zepp 自然エネルギー推進の取り組み~

コラム
2017年10月31日
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取材中の一コマ

2017年9月の第2週、第3週の10日間、大学の授業の一貫で、太陽光発電所ネットワークのインターンシップに参加しました。私は普段から音楽が好きでよくライブハウスに足を運んでいるのですが、PV-Net元スタッフの藤井和貴さん(現・NPO法人エコふくしま 音楽と未来 理事長)が、以前、Zeppというライブハウスの支配人を務められていたということを知りました。自然エネルギーと音楽の関係について勉強したい――。今回、私の強い希望でお話をうかがうことができました。

100%グリーン電力のライブハウス

Zepp

Zepp Tokyo

Zeppでは2003年より、同ライブハウスで開催されるすべてのコンサートやイベントを、風力発電による100%グリーン電力で賄う、世界初の取り組みを行っています。なぜZeppは100%グリーン電力を実現できたのか? というのも、グリーンな電気を使うということは、環境貢献にはつながりますが、経済的には多少の負担をともなうことになります。ライブハウスといえども営利企業。抑えられるコストはなるべく抑えたいはずです。

藤井さんによると、もともと多くのアーティストは環境問題を意識していて、東京・お台場の「Zepp Tokyo」建設の際、アーティストの坂本龍一さんたちからは、風力発電や太陽光パネル設置の提案があったそうです。しかし、お台場は風況があまりよくないうえ、土地使用契約期間が終了すると建物を取り壊さなければいけないなどの問題があり、自然エネルギー設備の導入は見送られました。

そこで挙がったのが「グリーン電力証書」の活用です。自然エネルギーで作られたグリーン電力には、電気そのものの価値に加え、化石燃料やCO2排出を削減する「環境価値」が含まれています。グリーン電力証書は、この価値部分を証書として購入することで、風力・太陽光などの発電設備を持たなくても、自然エネルギーを利用したと見なせる仕組みなのです。

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Zeppでは秋田県・能代風力発電所のグリーン電力証書を活用
Photo by PYONKO OMEYAMA – AKITA Beautiful Sunset(2012) / CC BY-ND 2.0

当時、全国5都市にあったZepp全館での導入ということでボリュームディスカウントが可能だったこと。また、秋田県にある大型の風力発電からつくられたグリーン電力証書は太陽光などと比べて安価だったなどの理由から、迷わず導入を決めたそうです。しかも電気代は主催者側が支払う契約になっているため、Zepp側にはコスト的な影響はないのだとか。それでも、トラックからステージへの楽器の搬入がスムーズにできたり、照明のセッティングが容易だったりと、会場としての設備に優れるZeppを選ぶ主催者は多く、多少電気代が高くとも大きな問題ではないようです。

これを聞いて私は納得したと同時に、このような取り組みがもっと広まってほしいと思いました。正直なところ、自分がZeppにライブを観に行った際、グリーン電力について気付くことはありませんでした。その一方で、自分たちが楽しむ時に使われているのがグリーン電力だと知って嫌な気分になる人はいないと思います。そして多くの人が集まるライブは、グリーン電力について知ってもらうよい機会になるはずです。そのためには、藤井さんが「アーティストからの発信がすごく大事」と話していたように、アーティストや主催者側が、使命感を持って啓発することが重要と考えます。例えば、ロックバンド・サカナクションの山口一郎さんは、「チケット転売」や首都圏のライブ会場が不足する「2016年問題」などの音楽・エンタメ業界の問題点について、精力的に発信・言及してきました。影響力を持つアーティストが発言をすれば、ファンは自ずと社会問題に目を向けることになります。

カップゴミ削減へのチャレンジ

イベントにゴミはつきもの。Zeppでは以前、バイオマスカップを導入していたという情報を耳にし、これについても藤井さんに質問しました。

ライブハウスでは営業許可の関係上、チケットとは別に500円のドリンク代がかかります。ドリンクを飲めば当然、カップやペットボトルのゴミが出るわけですが、Zeppでは九州工業大学でバイオマスカップの研究をしていた白井義人教授に協力し、リサイクル可能な植物性のプラスチックカップを試験採用しました。お客さんの反応やカップの回収率は非常によかったものの、スポンサーである飲料会社との関係や、リサイクルのためにはスタッフによるカップの洗浄が必要になることから、完全導入には至らなかったそうです。

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坂本龍一『JAPANTOUR 2005』でのバイオマスプラカップ導入の取り組み

世界的に環境活動は盛んになってきていますが、それに伴うコストや人手といった問題を解決しなければ“エコ”というのは簡単にはいかないのだと、改めて実感しました。スターバックスコーヒーではマイタンブラーを持参すると20円が値引きされますが、同様に利用者が積極的に参加したいと思える仕組みがあれば、私自身もぜひ試してみたいと考えます。

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今回、藤井さんから音楽と環境の話から将来の音楽事情まで、さまざまな話を聞くことができました。自分の好きなことと、将来の進路として興味があるテーマのどちらにもつながる貴重な体験でした。なかでも特に印象に残っているのは、藤井さんの「無知は一番恐ろしい」という言葉です。いろいろなことを知っていることが偉いわけでは決してないですが、知ることによって、また経験することによって視野を広げ、いつまでも成長できる――。そんな人でありたいと思いました。そしてライブに行くのがもっと楽しみになりました。

取材・文/インターン生・田添瑞穂